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地方と都会を、作為と不作為を、善意と悪意を、ビジネスバッグを持ったトリックスターがモノクロの糸で縫い上げてゆく。「心理劇」ならぬ「真理劇」。澤田サンダー監督、恐るべし、である。

横山秀夫/作家

誰かが一方的に喪失した世界のなかで、「他者」として生きるヒロインが、その逆説の中に、確かな希望を描き出す。あらゆる表現が「順接」としてしか語られない今、「逆説」としての映画をひさしぶりにみた。

大塚英志/漫画原作者(「多重人格探偵サイコ」)

大きな泥臭いお金の話を正直にしないで作られて来た、これまでの社会派映画の限界が、この映画で明らかになった。人間の営み(人生)のあらゆる場面に、こういう交渉ごとと掛け引きがある。企業で働き続ける人間にも企業(経営者)や上司、同僚との日々の掛け引きがある。幼い頃から、そういう親の姿を見ながら、子供は自分の人生環境を運命(与件(よけん)。既に与えられてしまったもの)として引き受けながら生きてゆく。

副島隆彦/評論家

里山の風景や、町の長の家訓、土地、それらは消滅しつつある日本の精神的原風景そのものである。成長し続ける経済という神話を盲信してきたツケが廻ってきたに過ぎない。虚無に満たされた者の身体は完全に糸が切れた凧のようで私たち日本人すべての象徴である。しかし、もう後戻りは許されない。ある男が言ったように、進歩という激しい強風に煽られ飛ばされていく歴史の天使を、いまや世界中の至る処で見つけることができるのだ。

ヴィヴィアン佐藤/美術家・非建築家

本音と建て前、世間体、協調性、金、憎悪。そんな煩わしさだけで構築されたような日常。結局、人はみな自分が一番かわいい。極端に言えば孤立を恐れない勇気の持ち主だけが幸せになれるのかもしれない。居場所は一つではないのだから。

森チャック/キャラクターデザイナー(代表作:「いたずらぐまのグル〜ミ〜」「汎用うさぎ」など)

故郷を開発する者、故郷を売る者、故郷を離れた者、故郷にしようとする者——そうした人々の家族と生き方の物語。「これしかないできない」は諦めではなく真摯さの言葉。“ひかりのたび”とは、カネやモノの向こうにある価値を見つける道程だ。

馬奈木厳太郎/弁護士・映画『大地を受け継ぐ』企画

モノクロ、ワイドスクリーンで描かれる、父と娘、家族の喪失のドラマは、その様式だけで、昭和の日本映画の懐かしさを感じさせてくれる。

大森一樹/映画監督